3D プリントにおけるBlockchainを用いた製造情報管理システム

概要

近年,デジタルファブリケーションと呼ばれるデジタル工作機器を用いたものづくりが急速に普及している.既存のメーカによる大量集中生産とは異なり,各個人が分散的に少量の製造を行う流れもできつつある.設計図となる 3D モデルは,個人で作成したものや,インターネット上で公開されたものを複製または改変したものが利用されている.しかしながら,製造物の設計図や製造者などの情報を保存しなければ製造責任や知的財産権の所在を明らかにすることは難しい.製造責任や知的財産権の所在を明らかにするには,誰でもデータを参照できるという“公開性”,製造物に紐づけられた情報の“追跡可能性”,また製造以降不正に改ざんがされていない “完全性”が必要とされる.藤吉らにより,製造物の管理のためにRFIDを製造物に埋め込むことで,情報と製造物を紐付けることは達成されたが,未だ上記の問題は未解決である.そこで本研究では,Blockchain技術を用い,公開台帳上に製造情報を保存することで必要条件を満たし,製造責任や知的財産権の所在を明らかにすることができるのではないかと考えた.Blockchain技術は,P2Pネットワーク上で分散的に公開台帳を形成し,入力データの検証を相互に行い保存することでデータの完全性を担保するシステムである.本手法を検証するために,シングルボードコンピュータで3Dプリンタの制御を行い,Blockchainノードとすることで,Blockchain上に製造情報を保存する実装を行った.この実装を用いて,上記の “公開性”,“追跡可能性”,“完全性”の各項目において検証を行った.これにより,本実験システムでは製造物の製造情報の追跡と,製造者自身が設計図の製作者である場合の製造責任や知的財産権の所在を明らかにすることができる.本研究の成果により,個人的な製造でも製造責任や権利の所在を明らかにすることができる.このシステムは,製造者にとっては責任が追及される事故が起こらないような質で製造を行わないためのディスインセンティブとなる.また,本手法を応用してBlockchain上で設計図の流通も管理することで,3D プリンタで製造された製造物を知的財産として管理することができる.

タイプ
収録
慶應義塾大学 総合政策学部 卒業論文